
建設業・土木工事業は、税務署が古くから重点的に見てきた業種のひとつです。工期が長く、下請け・孫請けが重なり、現金でのやり取りも残る——この業界特有の商習慣が、そのまま「指摘されやすいポイント」になっているためです。
ここでは、税務調査の現場を知る立場から、建設業・土木工事業に調査が入りやすい理由と、実際に指摘されやすい論点、そして日頃の備えを整理します。内容は2026年8月時点の制度にもとづくものです。
建設業・土木工事業に税務調査が入る頻度・確率は?
建設業・土木工事業は、飲食業などと並んで税務調査が入りやすい業種といわれます。国税庁が毎年公表している「法人税等の調査事績の概要」では、「不正発見割合の高い業種」として上位10業種が示されますが、一般土木建築工事・職別土木建築工事・土木工事といった建設・土木関連の業種が、繰り返し上位10業種に入ってきました(例えば令和2事務年度は、この3業種がいずれも上位10業種にランクインしています)。近年は現金取引の多い飲食・接客系の業種が上位を占める年もあるため、最新の順位は国税庁の公表資料でご確認ください(出典:国税庁 法人税等の調査事績の概要)。
1件あたりの売上が高額になりやすく、工事期間が長期にわたるといった業界特有の事情から、1回の調査で発見される不正・申告漏れの金額も大きくなる傾向があります。実際、国税庁の令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)法人税等の調査事績の概要(令和7年12月公表)では、法人税・消費税の実地調査は約5万4千件(前事務年度比▲7.4%)と件数が減った一方で、追徴税額の総額は3,407億円と直近10年で最高値、調査1件当たりの追徴税額も約634万円と高い水準でした。
件数を絞りながら追徴額が増えている背景として、同資料はAIを活用した予測モデルにより調査必要度の高い法人を抽出し、想定される不正パターンとあわせて調査先を選定していることを明記しています。「規模が小さいから見られない」という前提は成り立ちにくくなっていると考えておくのが実情に近いでしょう(出典:国税庁 令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要)。
こうした背景から、建設業・土木業では税務調査の頻度も比較的高く、おおむね5年から10年に一度の周期で調査が入るケースが多いようです。また、元請け・下請けや取引先に調査が入ったことをきっかけに、芋づる式に調査が広がることがあるのもこの業界の特徴です。一人親方や家族経営が多く、いわゆる「どんぶり勘定」になりがちなことも、指摘を受けやすい一因といえます。
なぜ建設業・土木工事業は税務調査が多いのか?
建設業・土木工事業は、業界全体として売上計上や経費処理で誤り・不正が生じやすく、税務署が重点的に見ている業種です。特に指摘されやすいポイントとして、次の3点が挙げられます。
- 期ズレによる売上計上漏れ
- 受注謝礼金(キックバック)の支払いと交際費の処理
- 人件費の現金支給や架空人件費
また、設立から5年ほど経過して売上が伸びている会社も調査対象になりやすい傾向があります。売上を伸ばすことと同時に、正確な会計処理ができているかを日頃から確認しておくことが重要です。
建設業の売上の「期ズレ」は税務調査でどうなる?
建設業・土木業は、売上の繰り延べ(期ズレ)の指摘が非常に多い業界といわれます。意図的に売上を翌期へ先延ばしするケースだけでなく、発注元の都合などで成果物(建物や施工)の引渡しから工事代金の請求・支払いまでに期間が空きやすく、売上計上のタイミングが煩雑になりがちなことも理由です。
特に、期末直前に完了した工事で請求が翌期になった場合、請求時期を基準に翌期の売上へ計上してしまいがちですが、工事の完了・引渡しが当期中であれば当期に計上する必要があります。意図的でなくても加算税の対象となることがあるため、「引渡しが完了した時点で計上する」という会計ルールにのっとって処理することが望ましいでしょう。
実務では、期末前後1〜2か月の工事について「完了報告書・引渡書・検収書の日付」と「売上計上日」が一致しているかを自分でチェックしておくだけでも、指摘のリスクは大きく下がります。調査官も、まさにこの突合から確認を始めます。
受注謝礼金(キックバック)の税務上の扱い
建設業・土木工事業は、他業種にはない独特の諸経費がかかる業種です。工事受注にあたって発注元へ支払う謝礼金、工事遂行の仲立ちを依頼するための地元対策費など、費目は多岐にわたります。
これらを「交際費」として処理すること自体が税法上ただちに問題になるケースは多くありません。しかし、交際費は損金算入に一定の上限があるため、この上限を回避しようとして「業務委託費」「支払手数料」などの科目で処理すると、調査の際に「科目仮装」や「使途秘匿金」として指摘され、重加算税が課されるケースが多く見られます。
交際費の取扱いは令和6年度税制改正で見直されています。中小法人(期末資本金1億円以下等)は、年800万円までの全額損金算入と接待飲食費の50%の損金算入のいずれかを選択でき、この特例の適用期限は令和9年3月31日までに開始する事業年度まで延長されました。あわせて、交際費等の範囲から除かれる飲食費の金額基準が、令和6年4月1日以後に支出するものから1人当たり10,000円以下(改正前は5,000円以下)に引き上げられています。
ここで実務上つまずきやすいのが、1人当たり10,000円を超えた場合、超えた部分だけでなくその費用の全額が交際費等に該当するという点です。また、この基準を使うには参加者の氏名・人数などを記載した書類の保存が必要になります。「誰と、何人で、いくら」を領収書に書き添えておくだけでも、調査時の説明が格段に楽になります(出典:国税庁 タックスアンサー No.5265、国税庁「令和6年度 法人税関係法令の改正の概要」、中小企業庁「交際費課税の特例」)。
科目を付け替えて上限を逃れようとする処理は、税務調査官にとって指摘のしやすいポイントであり、業界内で語られるような「ばれない方法」ではありません。安易な処理は避けるべきです。
現金支給に注意!架空人件費は認められない
建設業・土木業は人の出入りが激しく、日払い雇用や現金支給も珍しくない業界です。特に一人親方の場合、現金支給で作業員を雇うケースが少なくありません。振込であれば問題ありませんが、現金支給かつ支払いを証明できる領収書等がない場合、税務調査が入った際に外注費として支払った事実を立証できず、不利な判断につながります。
日払い雇用であっても、振込で対応するか領収書をきちんと保管しておくなど、備えを怠らないことが重要です。
また、実際には支払っていない賃金を過去の従業員などに支払ったように見せかける「架空人件費」や、実務に従事している従業員を外注先扱いにして「給与」ではなく「外注費」として処理し、源泉所得税や消費税の負担を減らそうとするスキームも、建設業・土木業ではいまだに見受けられます。こうした点は税務調査で必ずチェックされ、悪質と判断されれば重加算税の対象となり、経営に大きな打撃を与えかねません。思い当たる点がある場合は、税務調査に強い税理士などに相談し、修正申告などの対策を早めに講じることでダメージを最小限に抑えられる場合があります。

「外注費か給与か」は建設業でいちばん争いになる論点
外注費として処理していたものが給与と認定されると、影響は二重に及びます。源泉所得税の徴収漏れが生じるうえ、給与には消費税の仕入税額控除が使えないため、消費税の追徴も同時に発生するからです。建設業で追徴額が膨らみやすいのは、この二重の効果によるところが大きいといえます。
区分は契約書の名称ではなく、実態で判断されます。調査で見られるのは、おおむね次のような点です。
- その業務を他人に代替させられるか(本人でなければならないなら雇用に近い)
- 作業時間や作業場所の指定・拘束があるか
- 報酬が時間を基礎に計算されているか、出来高・請負単価で決まっているか
- 材料・工具・重機を誰が負担しているか
- 天候などで工事ができなかったときに報酬が支払われるか
「本人以外では対応できず、当社の指示どおりの時間に現場へ入り、道具も当社が用意し、日当で支払っている」という形であれば、契約書に「業務委託」と書いてあっても給与と判断される可能性が高くなります。迷う相手ほど、契約書・請求書・作業日報・支払記録をそろえて実態を説明できるようにしておくことが備えになります。
免税事業者の一人親方への外注費は、2026年10月から控除割合が下がります
インボイス制度に関連して、適格請求書発行事業者でない相手(免税事業者の一人親方など)への支払いについては、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。この割合は、令和8年(2026年)10月1日以後は80%から50%に下がります(さらに令和11年10月1日以後は控除できなくなります)。
下請けに免税事業者が多い建設業では、消費税の納税額に直接影響します。取引先ごとに登録の有無を整理し、単価の見直しが必要かを早めに確認しておくとよいでしょう。なお、登録がないことを理由に一方的に取引条件を不利に変更すると、下請法や独占禁止法上の問題になる場合があります。取扱いの詳細は国税庁のインボイス制度特設サイトでご確認ください。
調査当日までにそろえておきたい書類
建設業・土木工事業の調査では、次のような書類が「工事ごとに突合できる状態か」を見られます。事前通知を受けたら、まずはこの順で手元に集めておくと落ち着いて対応できます。
| 書類 | 調査で見られるポイント | 備えとしてやっておくこと |
|---|---|---|
| 工事台帳・原価管理表 | 工事ごとの売上と原価が対応しているか | 未成工事支出金の残高と工事の進捗を一致させておく |
| 注文書・請負契約書 | 契約金額・工期・変更契約の有無 | 追加工事や変更分の書面を工事ごとに綴じておく |
| 完了報告書・引渡書・検収書 | 引渡日と売上計上日が一致しているか | 期末前後の工事はとくに日付を自主点検する |
| 外注先への請求書・支払記録 | 実在する外注か、給与に当たらないか | 現金払いは領収書を必ず受け取り、振込に切り替える |
| 作業日報・出面帳 | 人工の実態と人件費・外注費の整合 | 誰がどの現場に何日入ったかを残す |
| 領収書・交際費の明細 | 科目の付け替えがないか、参加者が記録されているか | 飲食費は「相手先・人数・目的」を書き添える |
特別なものを新しく作る必要はありません。いま使っている書類が「工事ごとにひとつながりで説明できるか」——調査で問われるのは結局そこに尽きます。
よくある質問(FAQ)
Q. 期ズレを指摘されると、必ず重加算税になりますか?
A. いいえ。単純な計上時期の誤り(意図的でない期ズレ)であれば、通常は過少申告加算税(原則10%、一定額を超える部分は15%)の対象にとどまります。仮装・隠ぺいなど悪質と判断された場合に限り、重加算税(35%)が課されます。日頃から引渡基準で正しく計上していれば、過度に恐れる必要はありません。
Q. 外注費と給与は、どう区別されますか?
A. 契約書の有無だけでなく、指揮監督の実態、時間的・場所的な拘束、報酬が時間給的か出来高的か、材料や用具を誰が負担しているかなど、実態を総合的に見て判断されます。実態が「雇用」に近ければ外注費として認められず、給与として源泉徴収の対象になります。区分に迷う場合は税理士に確認しましょう。
Q. 一人親方でも税務調査は来ますか?
A. 来る可能性は十分にあります。規模の大小にかかわらず、売上や経費の処理に疑義があれば調査対象になり得ます。帳簿・請求書・領収書・通帳などを整理し、現金でのやり取りも記録を残しておくことが、いちばんの備えになります。
Q. 元請けに調査が入ると、下請けにも来るのですか?
A. 必ず来るわけではありませんが、元請けの調査で外注費の内容を確認する過程で、支払先へ照会が行われること(反面調査)はあります。元請け側の帳簿と自社の売上計上が食い違っていると疑義を持たれるため、請求書の控えと入金額・入金日を一致させておくことが有効です。
Q. 未成工事支出金の残高が大きいと指摘されますか?
A. 残高が大きいこと自体が問題なのではなく、完成・引渡しが済んだ工事の原価が未成工事支出金に残ったままになっていないかが見られます。決算期ごとに、残高の内訳が「まだ引き渡していない工事」で説明できるかを確認しておきましょう。
Q. 現場の駐車料金や差し入れの飲み物など、少額の現金支出はどう扱えばよいですか?
A. 少額でも事業のための支出であれば経費になりますが、領収書が取れないものは出金伝票に日付・相手先・金額・用途を残すことが必要です。まとめて「雑費」に計上した現金支出が多いと、内容の説明を求められやすくなります。
